大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)85号 判決

〔判決理由〕

(審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願商標(編注―第一 本願商標   ゴシック体をもつて「A・B・DICK」の欧文字を左横書きして成るもの)と引用商標(編注―第二 引用商標   ゴシック体風に「DECK」の欧文字を左横書きにし、その下段に「デック」の片仮名文字を左横書きに正書して成るもの)とを称呼上類似の商標であるとした点において、判断を誤つた違法がある旨主張するが、原告の右主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、本願商標中、冒頭の「A・B・」の部分は、アルファベットの「A」および「B」を、中間に「・」を入れて、次のに「DICK」接続したものであるが、わが国において、アルファベットの各文字が、氏名、名称の略記として使用されるとともに、商品の品位、品質および型式等の表示記号として用いられていることは、吾人の社会経験上、顕著な事実である。しかして、一般に商標の自然的称呼は、商標の要部、すなわち、その構成上重要なものとされる商品の出所識別機能を営む部分から生ずるものであり、ことに、簡易迅速を尊ぶ取引界においては、長い商標においては、識別機能無関係の部分は省略して、右要部によつて呼称するを通例とするものであると解されるところ、本願商標中、「A・B・」の部分は、アルファベットの最初の二文字として、前に述べたとおり、氏名、名称の略記ないし商品の品位、品質、型式の表示記号としての意味を有するにすぎないとみるを相当とするから、それ自体としては、商品の出所識別機能を有しないものであり、本願商標の要部は「DICK」の部分にあるものと認めざるをえず、本願商標を「A・B・DICK」と一連不可分の一語として把握すべき必然性を認めるに足る証拠はないのみならず、これを「エイ・ビイ・ディツク」と一連に称呼することは、取引の実際においては、冗漫に過ぎるものといわざるをえない。したがつて、本願商標については、その全体から「エイ・ビイ・ディック」の称呼が生ずるとともに、その要部「DICK」から、単に「ディック」の称呼をも生ずるとするのが、社会通念上相当であるといわなければならない。この点について、原告は、本願商標は原告会社の商号の要部を採つて構成したもので、最初の「A」「B」二字が商品の品質、型式等を表示する記号としての意味をもつものではないことが明らかであるから、称呼上省略されるべきものではなく、また、商号の要部として、すでに商号の一部が省略されているのであるから、それがさらに省略されることは不自然である旨主張するが、商標の称呼は、これを採用構成した者の主観的意図にかかわりなく、もつぱら、その構成自体から客観的に定められるものであることは、商標の実際的機能からみて明らかであり、原告の商号「A・B・DICK COMPANY」が、わが国で取引者、需要者間に広く知れわたつた著名な商号であり、その要部を取り出して「A・B・DICK」という本願商標を構成した場合にも、取引者、需要者間において一連不可分に「エイ・ビイ・ディック」とのみ称呼されるものであることを認めるに足る証拠もないから、原告の右主張は採用することができない。また、AとBとの間およびBの次に「・」のあることも、かえつて前述の理由で、右「A」「B」が本願商標の附随的部分として、称呼上省略されるべきものであることの根拠となりうるにすぎないものであり、さらに、本願商標が、文字の大きさが同一で、横に一連に配字して構成されているからといつて、常にその全部を一連不可分に呼称すべき必然性もないといわなければならない。

右のとおり、本願商標については、「エイ・ビイ・ディック」の称呼が生ずるとともに、その要部から、単に「ディック」の称呼をも生ずるものであるが、一方、引用商標の称呼が「ディック」であることは、その構成上明らかなところであり、両者の称呼を比較すると、本願商標については「デ」の次に母音「イ」が多く挿入されている点に相違があるに過ぎず、全体の語韻、語調が極めて近似して紛らわしく、商取引上彼此混合することを免れないものであることが明らかであるから(原告も、この点については、あえて争わないものであることが、弁論の全趣旨から看取することができる。)、両者は称呼上互いに類似の商標というべきものである。そして、両商標は、その指定商品においても互いに牴触するものであることが明らかであるから、本願商標は、結局、商標法第四条第一項第十一号の規定に該当するものといわざるをえない。

(むすび)

三 以上のとおりであるから、その主張のような違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。

よつて、本訴請求は、これを棄却する。

(三宅正雄 石沢健 滝川叡一)

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